翻弄(ファンロン共和国)



とある艦隊の旗艦。その艦橋での会話…。
「はあ…」
茶髪の若い女がため息をついた。
「どうした?」
隣にいる、司令官の男がややぶっきらぼうに訊ねた。
「どうしたもこうしたも無いですよ。イザナミにいた頃よりもお給金は下がったし、時々首都でテロが起こるし…。
 あんなてきとーな人間が大統領を名乗る国によく来る気になりましたね」
「嫌なら付いてくるな。別に強制された訳じゃないだろう?」
「あ、貴方を監視するためです!そうでなかったらこんな危ないところになんか…」
「イクセ女皇の命令でもあったのか?」
「…と、とにかく!貴方は危険人物なんですから、大人しく監視されてくださいっ!」
「……無茶苦茶だな」
男が呆れていると、艦橋に少女が入ってきた。
少女の服装は、戦艦の艦橋では普通見かけることの無いもの――端的に表せば、メイド服である――だった。
「提督〜。定時報告です〜。第五艦隊、第六艦隊ともに異常なしだそうですよ〜」
「分かった。…だが、言いたいことがいくつかある」
「何ですか〜?」
「まず、その間延びした口調を何とかしてくれ。それと、その服装も出来れば考え直してくれ」
「んむ〜。しょうがないですね〜」
相変わらず、間延びした口調で話す少女。おそらく、わざとやって楽しんでいるのだろう。
「…いや、もういい。シアリー・エルテン大佐、とりあえず持ち場に戻ってくれ」
「は〜い」
少女は、とてとてと軽やかな足取りでその場を立ち去った。
男と少女のやり取りを観ていた若い女が、男を茶化すように言った。
「ふーん。貴方はあーいう娘が好みなんですね」
「…今のやり取りの何処を見たらその結論に達するんだ?…それ以前に、そんな所まで監視しろと命令されたのか?」
「いいじゃないですかそんな事。それよりも今は仕事をしましょう」
「…一服してくる。留守の間のことはお前に任せる」
「提督、今は職務中です!それ以前に、艦内は禁煙です!」
ポケットから煙草を取り出しながら立ち去ろうとする男を、女が引き止める。
通常、艦隊の司令官が作戦行動中に艦橋を離れることなどあってはならない。また、密閉空間である宇宙船の中は、普通は禁煙である。
だが、男は特に悪びれる様子も無く言った。
「この国の宇宙軍では、艦内での煙草や酒は、交戦中以外なら許されている。移動の期間に要らぬストレスを溜めないための措置らしい。
 というわけだから俺は吸ってくる。いない間はお前が指揮を執れ。分かったな?」
「ちょっ、ちょっと待ってください!私が艦隊の指揮を執るんですか?」
女が慌てて聞き返す。
「…お前も一応軍人だろう。それに、お前の指揮する艦隊は被害が少ないと評判だっただろう。どこに問題がある?」
「でも…モリサキさんやイズハラさんには、戦略の練り方が甘いと叱られてばっかりだったんですよ?」
「そうだな…。確かにお前の戦略はまだ未熟で、その上気弱で戦い方が消極的になり過ぎている。
 大統領も、その気弱さが無ければ軍人として成功するはずだと言っていたが…」
「…じゃあ問題ありじゃないですか」
「いや、弱気な人間を鍛え直すため、ここは心を鬼にして一服してくる」
「ま、待ってくださいよぉ!」
女は男を引き留めようとしたが、男はそれを振り払って艦橋を立ち去ってしまった。

「…やれやれ。ツキナリ少佐の臆病風といいシアリーの服装といい…軍人らしさが決定的に欠けている」
喫煙スペースの椅子にもたれながら、男は煙草をくゆらせ、気弱な副官と不思議な格好の参謀官のことを考えていた。
「んむ〜、やっぱり似合わないですか〜?」
突然、シアリーがさっきと同じ、間延びした口調で問いかけてきた。
「な、何だ、居たのか?」
「たまたま通りがかったら、わたしの服装がどうのこうのって言うから〜。そんなに似合わないですか〜?」
「いや、似合わないわけじゃない。むしろ、恐いくらい似合ってるな。ただ、どういうわけか違和感が…」
「うえ〜、やっぱり似合ってないんですか〜?」
「人の話は最後まで聞け。違和感があるとは言ったが、似合ってないとは言ってない」
「…ほんとに?」
何故か少し涙目で男を見つめる少女。男はうんざりした様子で応えた。
「嘘をついてどうする。俺はただ、場所に合った服装をしろと言っただけだ」
「場所に合った服装ですか〜?軍服姿はあんまり評判が良くないんですよ〜?」
「この国の軍服は男女共通だからだろう。似合わないからという訳じゃないだろう」
「…ほんとに?」
「何なら、次の定時報告のときに、軍服に着替えて報告に来い。似合っているか、ツキナリに判定してもらおう」
「りょ〜か〜い」
シアリーは、相変わらずやる気の感じられない、間延びした口調のまま、喫煙スペースを立ち去った。
「…さてと、そろそろ戻ってやるか…」
男も、喫煙スペースを立ち去り、艦橋へと戻っていった。

つづく


あとがき

タイトルを見て、ここまでほんわかな内容を想像した人間はどのくらいだろうか。
私の生態にそこそこ詳しくないと、多分もっと重厚な作品を予想したでしょう。
まあ、今までの作品を見る限り、そんな重厚な作品が書けるわきゃないってことは簡単に想像できるでしょうし(苦笑)。
ちなみに、今回は一応続きがある予定です(予定ってお前なぁ)。だからあえて公表せず。
でも、待たなくていいです、ほんと。
待ったりなんかするとまた3週間とか4週間とか待たされることになりますよ(笑)。
とりあえずしばらくはプログラム作りに力を注ぐことにして…。
あ、そういえば、今回はファンロンが舞台なのにファンロンの軍人が一人も出てない。
かろうじて「てきとーな大統領」ってのが…だめ?

2005/11/24 のー天気

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