混迷の序曲(地球統一連邦)
「…済まないな、つき合わせてしまって」
「私は構いません。大佐、最近元気が無いみたいでしたから」
軍人の屯するバー。大佐と呼ばれた女性のグラスにはヴォッカが注がれていた。
「…そう、か。心配させて悪かった」
「気にしないで下さい。私も大佐と話がしたかったんですから」
もう一方の女性のグラスには、琥珀色の液体が注がれていた。
「私と?別に面白くも無いぞ」
「いいんです。どちらにしても面白い話ではありません」
「…連邦のことか?」
大佐の問いに、その女性は頷いた。
少しの間を置いて、大佐が口を開いた。
「…今の連邦をどう思う?
かつての力を失ってソル星系に閉じ込められ、抵抗することもままならなくなった、現在の連邦を」
「正直な意見を言えば、連邦はもうじき崩壊すると思われます。
満足な軍備もままならなくなった時点で、我々は敗北していたのです」
「…そうかも知れんな。あるいは、アガスティアとメガリスが新興国に呑まれた時点ですでに負けていたのかもな」
「…かも知れませんね。グッドホープ攻略に向かっている間にαケンタウリ星系の直轄惑星は叛乱軍に奪われ、
どうにか平定したロゼッタ星系はブラオローゼに掠め取られた。さらに対応の遅れが傷を広げ、大きく後退した。
そして、ファンロン共和国を名乗る叛乱軍に追い詰められ現在に至る…。完全な負け戦ですね」
「ふう、連邦が崩壊したら私たちはどうなるんだ?」
大佐は、グラスに半分ほど残っていたヴォッカを一息に飲み干し、ため息混じりに言った。
「さあ…。私には何とも…」
もう一方の女性は言葉を濁した。だが、彼女もそのことは気になっていた。
しかし、考えていても仕方がないと開き直ったのか、グラスの中身を喉へと流し込んだ。
「…大佐、そろそろ戻りましょう。…大佐?」
「ん、ああ、そうだな…」
「どうしたんです、大佐?そんな醒めた顔して…」
「いや、将来のことなんか考えてなかったからな。そのことを考えてたら全々酔えなかった。
…酔えない酒がこんなに不味いものだったとはな。だが、お前と話して何となく気が楽になった。感謝する」
「……」
二人の女性士官――ヴィーカ・カザロフ大佐とブリジット・クロフォード少佐――は、寒空の下、宿舎への帰途についた。
…そして、彼女たちの不安が現実のものとなるのに、それほど時間はかからなかった。
星刻暦524年47期、ファンロン共和国から地球連邦に対する降伏勧告が突きつけられたのだ。
つづく
あとがき
またやっちゃった、いろんな意味で。
まず、同じネタの焼き直しを何とかしろよ自分orz
またヴィーカがヴォッカ引っ掛けてるし〜。
第二に、BBSで無茶するな、と。
アレを書いたものだから、また締め切りが生まれ、結局残り24時間で上がる突貫工事。
前のときに「しばらくSS書かないかも」とか言っておきながらこれだもの。
しかも、タチの悪いことに続き物。次も書かざるを得ない展開に。
大体の展開は考えているのだが、日本語になるかが非常に心配だったり。
なんか、今の精神状態のままだと宇宙語になってしまいそうなんですが…。
ああ、早く上がるといいな…。
ちなみに、今回の時間軸は「止まり木」よりも後ということになっています。
なんか気付いたらクラウスが昇進しすぎ(またはアーデルが昇進してない)ということもあって、時間軸が微妙なんだよなぁ…。
さらに余談になるけど、「翻弄」「小さな花束」の時間軸は523年の半ばあたり…のつもり。
シアリーは17歳ってことになるのかな、この場合は。かなりの大怪我させちゃったけど。
2006/01/31 のー天気
戻る